a night at the Hawk wind

Magical power mako

a night at the Hawk wind

jigen-012   2014年作品

太古と未来を自在に往復しつつ、常に宇宙の彼方の何者かと交信し続けてきた音楽家、マジカル・パワー・マコ。その交信相手が誰なのか、僕は未だに知らない。しかし、かつてないほどの危機に瀕したこの地球という星で、今、彼が奏でる超時空的コズミック・ブルースがにわかにリアルに我々に響いてくることだけはわかる。マコ的とはつまりミコ(巫女)的ということなのか。
松山晋也(音楽評論家)

マジカルパワーマコが2014年、京都で行ったライブ音源。ソロ演奏とゲストプレイヤーとのセッションを収録。ソロにおいては一人の演奏とは思えないようなギターオーケストレーションを展開。驚異のスペースサウンドが収録されている。プログレッシブロック的な音響トラックとトランスビートをベースにした即興演奏であり、ライブの回数が少ない事でも知られるゆえ、貴重な音源作品となる。  2014年作品
■アーティストプロフィール
1974年アルバム「マジカル・パワー
(ポリドール)でデビュー。武満徹など各著名人から絶賛させ、天才出現ともてはやされ、その後、アルバム制作を重ねがら、映画音楽、NHKのドキュメンタリー番組のための音楽制作を行う。80年代以降、最新のテクノロジーに関与しながら、テクノ、トランスなどのスタイルの変遷を重ね、チャネリングによる宇宙との交信を音楽化するコンセプトを貫いている。マルチ演奏家である彼の使用楽器はギター、シンセサイザーを含む全ての電子楽器の他、多数の民族楽器も演奏する。そして味わい深いボーカルを聞かせることも有名で、正真正銘のオールラウンドプレイヤーであると言える。海外での評価も高く、他の追随を許さない独自の音楽家である。

1. rising the night
2. shangri-la
3. welcome to the earth
4. voice of Moscow
5. a night at the hawk wind Ⅰ
6. a night at the hawk wind Ⅱ
7. space station

composition and improvisation by Magical Power Mako

Magical Power Mako guitar orchestration and vocal

Guest player
Anal chan voice(1.2.5.6)
Miyamoto Takashi electric bass(2.5.6)
Moscow Disco iKaossilator (rythm) (5.6)

Live recording by Yamaguchi Michio
at Live Bar Hawk Wind Kyoto 2/21/2014

Mix and edit by Miyamoto Takashi

Mastering by Owa Katsunori
at Studio You Osaka 4/23/2014

Cover design by Miyamoto Takashi and Ishigami Kazuya
Special thanks to Kurata Kenichi,
Hirokawa Yuu, Ito Tadao

Produced by Miyamoto Takashi

<2014年の‘welcome to the earth’>

弾き語りによる‘welcome to the earth’で繰り出される奔放なギターテクニックを目の前にした私はマジカルパワーマコの印象を新たにする思いであった。それはギタリスト、ボーカリストとしての彼の原型的な姿であっただろうか。ブルースやトラッドのスケールを交差させ、音色を変化させながら多様なリフを連発し、即興の歌を素早く展開させてゆくマジカルパワーマコに実験的アーティストならぬプロフェッシャナルなミュージシャンそのものの姿を発見し、過去の音楽作品に見られるイメージとは違う多面性を見たと言っていい。それは私にとって新たな喜びでもあった。2014年2月21日。その日、私はマジカルパワーマコに遭遇したのである。

京都でイベント‘狂人企画’を主宰する倉田憲一氏から「マジカルパワーマコのライブをやるんですが、宮本さんのレーベルで録音してCDリリースしませんか」という依頼を受けた時、平静を装って「やりましょう」と即答したが、その意外な名前に触れた私の驚きは相当なものだった。マジカルパワーマコに対しては大物アーティストながら半ば伝説と化したかのような印象を持ち、私は現在の彼が一体、どんな音楽を演奏するのか想像もできなかったからだ。

「僕の前には誰もいなかった」
マジカルパワーマコがそう自負する時、私達は彼のデビューアルバム「マジカルパワー」(74)の奇想天外さを想起するだろうか。武満徹をして「この1枚のアルバムは音楽に存在する見せかけの階級区分を打ち砕く美しい石なのだ」と言わしめたその音楽性はあらゆるカテゴライズを拒み、同時代的共振性を示さない孤高の異物として提示された。
私が「マジカルパワー」を聴いたのは82年頃だったが、表面的なミュージックコンクレート的な印象とは裏腹にその音楽の‘大きさ’に当時、熱中していた欧米の実験的なニューウェーブの‘先端性’を軽く凌駕するスケールを感じた事を覚えている。私にとっては「マジカルパワー」は大きな音楽、いわば‘大音楽’であった。
そんな幾分、抽象的な感慨は「マジカルパワー」にあった驚異感覚に由来していたのだろうが、当時のニューウェーブシーンがあらゆる‘更新’を提示しながら、音楽を方法論や概念に依頼するいわば‘現代音楽’化する様相も一方で見せていた事による音楽の特殊化現象という‘小ささ’との比較において、「マジカルパワー」が時代性を無効にするような大きな力を持っていると直感し、その素の自然体から生まれ出たような音楽性には当然ながら理論武装も必要なく、従って私にとって「マジカルパワー」は普遍的な作品に映ったのである。
私がマジカルパワーマコというアーティストを知ったのが、当時、購読していた「マーキームーン」という音楽誌に掲載されたアルバム「welcome to the earth」(1981年 東芝EMI)リリース時のインタビュー記事によってであったが、確かそこで彼は‘クロスオーバー’‘AOR’という言葉を口にしていた事を記憶している。ある意味、意外な単語だったのでおそらく間違いない。私は彼の趣向がその実験性とは裏腹に何か‘温かいもの、ヒューマンなものにそのベクトルを持っていると推測し、その通り、「welcome to the earth」はテクノポップという当時の潮流に合わせたコマーシャルな制作ながら歌心溢れる楽曲を並べたもので彼の本質が伺えるものであったと思う。そこには「マジカルパワー」の驚異感覚はないが、プロフェッシャナルなソングライターとしてのマジカルパワーマコの本領発揮が余計、興味深く感じられ、更には次号の「マーキームーン」誌の付録についたソノシート「music from heaven」での壮大な瞑想的ドローンサウンドを体験するに及び、このアーティストの広角な音楽性に限りがない事を認識し、その予測不可能なアーティストシップに改めて驚異を感じたのであった。

私がマジカルパワーマコの過去作品を聴き直し、更に本人から送っていただいた秘蔵音源である「andromeda」の多幸感溢れるテクノサウンドを聞くに及び得た感想は楽曲性と実験性の同居という事に尽きるだろうか。彼にあっては創造の全てが内面表出的であり、音楽のジャンルやフォーマットは二次的なものになる。従って年代によってかなり異なる作風を持つものの、手法の新旧によっては完成度が左右され得ない作品を残している。たとえば90年代に残されたトランステクノ系の音源においてもそのポップセンスやメロディの‘可愛さ’が際立っており、そのヒューマンな温かい肌触りは同時代の他のテクノ系とは異なる質感を持ち、何度でも聴きたくなるような中毒性を持っている。そして5枚組CDである「Hapmoniym 1972-1975」(93)はデビュー前後のマジカルパワーマコの私家録音集とでも言うべきパーソナルな音源だが、全編に連なるトランシーな感覚は聴く者を確実に耽溺させるだけの妙な説得力を持っており、趣味的な産物とは言い切れないパワーに溢れていた。それは多彩な楽器を玩具化しながら真摯な内面の表出を遂行するこのアーティストの音楽哲学をよどみなく垣間見ることができる貴重なドキュメントという性格を有すものでもあろう。つまりマジカルパワーマコにとって音響的な快楽志向は70年代初期からの系譜であり、トランスなどが世界で流行するずっと前から既にトランスな資質で音楽創造を行っていたという事がわかる。そして私が感じたのは、音楽創造のその作り込まれ方、練られ具合というのが、楽器を繰る技術的な産物ではなく何か内面的な要請に従う必然性を伴った作業のような気がしてならないのであった。「Hapmoniym 1972-1975」に見られる遊戯性に潜むどことなく憑依のような音楽演奏に私は注目した。それはマジカルパワーマコは音楽で何を志し、なにを実現しようとしたのか。そんな興味であると言っていい。その音楽に一貫して流れる、スピリチュアルなエッセンスは現実世界から一見、遊離した理想郷のような感触を持って聴く者の五感に触れる。そして音楽を奏でる当人は深い快楽を味わい、それを私たちに開示しているかのようだ。

マジカルパワーマコのある種、恍惚状態をイメージしながら私はいみじくも‘マジカルパワー’と自ら名付けた魔術的な力による何者かの音楽が彼を通しながら湧き出てくるのを感じていた。民族楽器を嬉々としながら演奏するマジカルパワーマコとは音楽の魔術的なパワーを奥底で信奉する現代のシャーマニックな音楽者とでもいうべき存在なのだろう。

ライブのMCにおいてチャネリングについて言及していた彼にとって、音楽創造は内宇宙から発せられる大宇宙へのテレパシーといった様相を示す。その音楽からは固有の時代性や世相、あるいは人々の内心の動向といった‘外部的な’事柄に関する密着感よりもマジカルパワーマコ自身のパーソナルな実体験や内面作業、思索、瞑想などがイメージされる。端的にいえばそれはマジカルパワーマコのサイケデイックな資質の顕れと言えようか。音楽が‘コミュニケーション’を基軸とした価値通念が全盛であった70年代カルチャーを通過した彼の根底にはやはり何らかの理想主義の基底があり、それは音楽に対する昨今のようなドライな営為や醒めた視点によるインナーワールドとは相いれず、無論、商業主義的な処世による安易な拡がりへと音楽を導く要素もかけらも見せる事がない。広範で高度な感覚的伝播とは音楽が強力でなければならないし、人々の意識や感性を開拓、更新するような志向を持ってこそそれが実現するだろう。マジカルパワーマコの音楽が常に驚きに満ちており、違和感をも伴う世界を提示している事に彼の何か一貫したコンセプト、生き方のようなものを感じざるを得ない。しかもそれは桃源郷を見据えた夢世界、あるいは現実へのメッセージや政治色に纏われた批判行為ではなく、もっと大きな規模の危機意識や直観(あるいは霊感?)に裏付けされた質実を内包した表現ゆえの深みという感じもする。
その意味で重要なのはマジカルパワーマコの中で常にテクノロジーの最新の部分に関心を示す事によって、より現代的、未来的な視点を保持していることだろうか。テクノロジーへの傾倒が宇宙との距離を縮め、そんなツールを高次元に媒介する事が自己表現を高めていく条件であるかのようなある種の進歩史観が彼の内にあるような気もする。それは人間の聴感覚の未知なる開拓、新しい意識の獲得といった彼の目指す方向性へ同伴するものとしてそういった最新機器への関心が同居しているのかもしれない。

京都の元田中にあるHawk Windは雑居ビルの二階にあるアットホームなライブバーである。2014年2月21日。その日、この小さなスペースは正に大宇宙と化した。<あなるちゃんVSマジカルパワーマコ>と題されたイベントは事前の打ち合わせもなしにその大凡を即興演奏が占めるプログラムであったが、全体が何か不思議な力によって動かされているかのような物語めいた展開になり、結果的に奇跡的なライブ演奏となったと思っている。
そのライブは先発のあなるちゃんのソロパフォーマンスの途中、マジカルパワーマコが入り、ループを使用したギターオーケストレーションを展開する。その音源が一曲目の「rising the night」である。そしてドラムに回り、しばしの間、あなるちゃんとのデュオに興じた彼はやがて私(ベース)を手招きしステージに呼んだ。このあたり非常に場当たり的で偶発的でもあったが、ギターに戻った彼が深く、広がりのあるイントロダクションを弾き出し、私はそれに応じる形でメロディを重ねるが、すぐにサンプリングの四つ打ちビートを発した事で全体がグルーブの世界へ突入する。そこから仕込み音源を交えた全くエキサイティングな展開でまるで作曲されたビートナンバーのような趣となった。それが2曲目にまとめた「shangri-la」である。私が勝手にタイトルを命名したこの2トラックはライブの前半部分のハイライトであり、この日のライブが素晴らしくなる確信を得た演奏でもあった。休憩をはさんだ2部はマジカルパワーマコによる弾き語りによる「welcome to the earth」で始まった。1981年にリリースされた時のテクノバージョン、あるいは後、「lo pop diamonds」(97)に収録された‘オリジナルバージョン’とも違う新しいアレンジによる試みであった。特に私は日本語の歌詩でメッセージを展開したことに新鮮な驚きを禁じ得なかった。そして冒頭に書いたように、「welcome to the earth」を起点とし、そこからメドレーのように次々と異なるギターフレーズを繰り広げ、即興のボイスを展開するマジカルパワーマコは正しく変幻自在のミュージシャンであっただろう。最後はkyoko Moscow disco kimura(クレジットはmoscow discoとなっている)のiKaossilatorに導かれながら即興のセッションとなった。「a night at the Hawk Wind Ⅰ」と「a night at the Hawk Wind Ⅱ」がそのテイクである。完全な即興演奏がまるで示し合わせたかのような構成で展開されるトラックになっており、絶妙と言った瞬間が随所に見られるのは本当に何かの力に突き動かされたと思えるほどだ。ラストトラック「space station」は「rising the night」でのギターループを発展させてミックス制作したトラックである。

マジカルパワーマコの最新作である本作は70年代以来、彼が持ち続ける実験性とコンポジションの能力に裏打ちされた新たな試みである。この圧倒的な音源を前にすればスタジオ録音によるフルアルバムを期待するのは私だけではないだろう。

2014.4.25  宮本 隆(時弦プロダクション)

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magical power mako  &  Damo Suzuki

live at club mercury Osaka 2014/7/24

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